2009年6月29日月曜日

子どもにスポーツをさせるな:小林 信也 著 【心技体】 その3

子どもにスポーツをさせるな:小林 信也 著 2009/06/10 中央公論新社


小林 信也 氏 (スポーツライター)小林 信也の書斎

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↓本文より:

☆終章 大好きな気持ちを育てる

「大人たちが毒され、ずれてしまっている」

 プロスポーツが巨額の収入と結びつく時代になった。子どもがスポーツに取り組む目的
が、「健康増進」「心身の育成」「仲間づくり」だけでなく、「将来プロとして巨額の収入
を得るための英才教育」という明確な道筋を持つようにもなった。そんな中、各競技団体で
は、それぞれ熱心に「ジュニア育成プログラム」を展開している。

 その原点には競技を愛する純粋な思いがあると信じたいが、組織となり、運営・経営を担
う立場になると、そしてその競技に関わるビジネスを生業にすると、「競技の普及」「競技
人口の拡大」「人気獲得」は利益のための欲とも深く絡んでしまう。そうなると、ジュニア
の育成も、その子どもの将来のためではなく、ビジネス繁栄の要素にすぎなくなる。


 もう一度、スポーツはなぜ奨励されるのか、なぜ少年少女が取り組むべき貴い活動なのか
を、しっかり見つめ直す必要がある。それはお金のためだけではなく、一部の大人の利益の
ためでもないはずだ。



 「子どもが夢中になるのはお金のためじゃない」

 子どもたちは何のためにスポーツをするのか。社会はなぜスポーツを肯定的に支援するの
か、その原点や理念を根本に置く姿勢が見失われている。

 しかしそろそろ、原点に帰るときが来たのではないか。私たちは、「文武両道を求め、
スポーツを通して子どもの人格を磨く」という、本来の目的を片時も忘れてはいけないのだ。
たとえ目の前で勝ちたい試合が展開されていても、勝つ以上に自己を鍛える価値を優先する
のが、親の正しい姿勢だろう。

 スポーツという熱い分野、試合の興奮の中でそれを維持するのが容易でないことも私自身、
知っているが、それでもこの姿勢は守らなければならない。

 それを一瞬でも崩してしまえば、スポーツは積み重ねの利かない、ただの消費的娯楽と
なる。そして、子どもたちの心身を逆に蝕む方向に進み始めてしまうからだ。



☆おわりに

 観客さえも心臓が飛び出すくらいの緊張する場面で、最高のパフォーマンスを演じてのける
選手を突き動かすのは、言葉には表せない意志の力、身体の奥からわきあがってくる情熱と
意欲。それはまさに、「できる!」と感じて動く潜在的なエネルギーだ。そして、「自分と
の闘い」に勝つことで得られる成長と感動。それこそが、スポーツに取り組む目標であろう。
子どもたちにスポーツをやってほしいのは、こうしたことで得られる喜びに目覚めてほしい
からだ。そしてさらなる自分に出会うために、日々、日常生活から努力をしようと自発的に
感じて生きる姿勢を身につけてほしい。

 日本人は、そうした「内面の力」を内に秘めている。その力を育み、伸ばすことがスポーツ
に取り組む意義であろう。それが、目的を誤りかけているスポーツ界が本来、目指すべき道筋
だと信じている。最近は、身体より頭脳が大事だと考える価値観が世の中を支配している。
それはとんでもない誤解であり、おごった発想だと思う。人間の身体は、頭脳より遥かに
スピードが速く、行動力がある。しかも、研ぎ澄まされた身体は瞬時の判断を誤らない。

 頭脳の命令に支配され、身体の感性が鈍った大人ほど、理屈に支配され、理屈にだまされ
る。いまの日本社会の腐敗や混迷はその果てに起こった現象だと思う。

 私たちは真剣に、頭脳ではなく、身体で生きる習慣を磨き、身体でできる人間を目指さな
ければならない。

 子どもたちには、スポーツを通じて、そのような身体を磨き、感性を伸ばしてほしい。
大人の鈍った感覚で子どもの才能をつぶすのではなく、子どもの秘めている力の扉を開けて
あげる、その後押しをするのが親の務めだ。

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「スポーツとお金」「日本人・人間・習慣」「身体と感性」「子どもと大人」についての内容
が印象的だ。

運動あそび塾【しらさん家】も月会費(いわゆる月謝)で成り立つビジネスモデルであり、また
地域のミニバスケットボールのコーチングの場面でも、親との関係で難しいケースもあり、
考えさせられる機会となった。

スポーツ支援においては、ボランティアと料金を要するかかわりの線引きがまだまだ課題だと
感じているが、将来プロでお金を稼ぐための先行投資としてではなく、『人格を磨く=ヒトづくり』
への感性価値を認めていただいた対価によるソーシャルビジネスの確立に挑戦し続けたい。


ジュニアとシニアの運動あそび塾 しらさん家 株式会社 笑足ねっと わらかしねっと

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