2011年1月14日金曜日

【希望=お互いに⇒物語】@玄田 有史 教授(東大)

Wikipedia 玄田 有史 教授 (東京大学 社会科学研究所)

ゲンダラヂオ

希望のつくり方 岩波書店 (2010/10/21)

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日本経済新聞 2011/1/7(金)

↓本文より

【2011 日本の針路】「希望」という物語 自ら紡げ

★依存体質から脱却を 人間関係の回復が重要に

 最近、何かと「幸福」が話題だ。フランスのサルコジ大統領は、経済発展を目指す際
にも幸福度を加味すべきだという報告書を2009年に出した。英国のキャメロン首相も、
国民の実感している幸福度を示す新指標の開発を検討中という。そして幸福の反対である
「不幸」を最小にすることを標榜した菅直人内閣。いずれにも、経済成長を追い求める
よりは、もっと内面的な心の充実を目指そうという考えが見えかくれする。

 はたして幸福追求という戦略は、今後向かうべき新たな針路となるだろうか。会社に
たとえて考えてみる。売り上げも利益も好調が続き、給料もそれなりに払われている。
けれども働いている社員には達成感や充実感がまったくない。職場の雰囲気も悪い。
そんなとき、業績や報酬だけでなく、社員の意識や感情に配慮し、働く幸福感を高める
取り組みは大切だ。職場の雰囲気が暗くて業績もパッとしない会社は数多(あまた)ある。
だが職場が暗いのになぜかもうかり続ける会社はない。社員の幸福を重んじることが、
結局は会社のメリットになる。

 反対に会社が停滞のまっただ中にあるときならどうだろう。経営陣が「これからは社員
の幸福に注力する」といって、社員の心に響くだろうか。給料が増えない。雇用も不安だ。
そんな現実から目を背けさせる「逃げ」の方策にすぎないと社員に思われたら、幸福への
取り組みも失敗に終わるだろう。政治でも会社でも、幸福の標榜にはタイミングが重要に
なる。

 幸福と似ているようにみえるのが「希望」だ。希望も幸福も所詮は気持ち次第で同じ
ようなものと考える人もいる。しかし希望と幸福は、異なるものである。

 今、幸福を感じているとする。そんなとき人は必ず「このままの状態が続いてほしい」
と思う。幸福は、維持や継続を求めるものだ。

 一方、希望は「現在よりも将来はよくなってほしい」とか「未来はもっとすばらしい」
と信じられるときに表れる。希望は、変化と密接な関係を持つ。停滞する社会に求められる
のは、良い方向に向かっていると確信できる一筋の希望だ。

 筆者らは希望が社会に生まれる条件を探る「希望学」を提唱し、研究を続けてきた。全国
の20代から50代を対象に行ったアンケート調査では、3人に1人は「希望がない」もしくは
「希望はあるが実現しそうにない」と感じていた。

 反対に、苦しい現実の中でも希望を持っている人の特徴も明らかになった。詳細は拙著
『希望のつくり方』で紹介したが、以下では、多くの人が将来に希望を持つためのヒント
を記してみたい。

 そもそも希望とは何なのだろう。希望学では外国の研究者とも意見を交えながら、希望
(Hope)を「A Wish for Something to Come True by Action」であると考えた。希望は
「気持ち(wish)」「何か(something)」「実現(come true)」「行動(action)」という4本
の柱から成り立つ。希望が持てない状況では、4本柱のいずれかが見失われている。そして
個人の希望に「お互いに(each other)」といえる他者とのかかわりが加わるとき、社会に
共有された希望へとつながっていく。


 では今後、どのような雇用対策が求められるだろうか。総務省統計局『労働力調査』を
みると、「医療・福祉」分野で確実に就業は拡大している。02年1月に472万人だった
就業者数も、昨年10月時点で670万人まで増えた。健康面で不安を抱えている人ほど希望
を持ちにくい傾向もあることから、この分野の一層の成長は、希望の拡大にとっても
不可欠である。

 その他に見逃せないのが「専門サービス業」および「その他の製造業」などでの雇用創出
の兆しだ。国内雇用で今後希望が持てるのは、専門性に裏打ちされたサービスと、従来の
枠組みを超える柔軟性を持ったものづくりの分野だろう。


 加えて、希望学で明らかになったのは、友達が少ないと思っていたり、孤独を感じている
人ほど希望を持ちにくいことだった。昨年は「無縁社会」が話題になったが、自殺、孤独死、
ひきこもり、ニートなど、日本人の孤独化現象は深刻さを増している。人と人のつながりが
さらに薄れていくとすれば、希望はますます遠のいていく。

 人間関係を一気に回復する方法が一つだけある。共通の敵を仕立てあげることだ。皆の敵
を倒すことを目的とすれば一体感はすぐに生まれるだろう。しかし、それはスポーツなどを
除けば、社会が選んではいけない禁じ手である。

 だとすれば孤独化を防ぐには、孤立した人を社会に結びつける広い意味でのビジネスが、
地道に成長していくしか手はない。人の気持ちや行動に寄り添い、適度に上手なおせっかい
ができる。そんな高度な専門性を持った人材を政策的に養成していくべきである。そのため
にも非営利組織(NPO)、社会的起業、地域活動や芸術振興など、人をつなぐビジネスを
担う人々は、今後の日本の希望の星だ。

 希望学では多数のインタビュー調査も行った。希望について語るとき、多くが期せずして
用いる言葉があった。「物語」という言葉である。

 挫折を経験し乗り越えてきた人や「いろいろあったけど、結局、無駄なことなど何も
なかった」といえる人ほど、希望を持っていることが多い。希望は、前向きの目標という
だけでなく、経験による学習を踏まえて進む人生のダイナミズムである。そんな試行錯誤
のドラマをあえて生きるという決意が、希望を物語と結びつける。


 日本から希望が失われたといわれて久しいが、同時にそれはアニマルスピリットの喪失
を意味した。バブル経済崩壊後の散々な失敗や、中国・韓国などの台頭に萎縮し、諦め
ムードが社会に蔓延(まんえん)している。かつてささやかれた「勝ち組・負け組」という
言葉もすっかり聞かなくなった。満ちているのは「みんな負け組」という鬱々とした気分だ。

 そんななか、自分から何かを衝動的にやるよりは、誰かがわかりやすい解決策を与えて
くれるのを待つ依存的な状況も強まっている。今必要なのは、目先の計算だけにとらわれ
ないアニマルスピリットの回復と、フリーランチ(ただ食い)をいまだに期待する依存体質
からの脱却である。

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希望:
「気持ち(wish)」
「何か(something)」
「実現(come true)」
「行動(action)」
4本の柱から成り立つ。
希望が持てない状況では、4本柱のいずれかが見失われている。

⇒個人の希望に★「お互いに(each other)」といえる他者とのかかわり
が加わるとき、社会に共有された希望へとつながっていく。


 「人の気持ちや行動に寄り添い、適度に上手なおせっかいができる。」
⇒高度な専門性を持った人材を政策的に養成していくべき
⇒非営利組織(NPO)、社会的起業、地域活動や芸術振興など、
⇒★人をつなぐビジネスを担う人々は、今後の日本の希望の星だ。


『笑顔をつなぐ』:我々の仕事・役割=「お互いに」⇒「他者とのかかわり」
を紡ぐ地域の【物語=希望】へ地道だが一歩一歩育てていきたい!!


ジュニアとシニアの運動あそび塾 しらさん家 株式会社 笑足ねっと わらかしねっと

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